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私の息子が今度アメリカの大学に留学することになったのですが,向こうの大学から息子のパスポートの写しと息子が卒業したこちらの私立大学の卒業証明書,それに戸籍謄本を送ってよこすよう言ってきました。
それらに公証人の公証がなければいけない,ということですが,初めてのことでなにがなにやらわかりませんのでとりあえず電話をさせてもらいました。
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おっしゃっている公証というのは文書の認証ということですね。
まず,文書の認証ということについてご説明します。
認証というと難しく聞こえますが,文書の認証というのは,その文書に記載されている署名が間違いなくその本人の署名であるということを公証人が証明することです。
そして,その内容を盛り込んだ「認証文」を公証人が作成します。
これをお客様がお持ちになった署名がある文書と一緒に綴じて一体のものとしてお客様にお渡ししますので,お客様はこれを相手の方に渡すことになります。
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まず,教えていただきたいのですが,よく署名とか記名押印とか言われているんですが,その違いはなんですか?
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署名というのは,お客様がボールペンとか万年筆で手書きでご自身のお名前を文書に書き入れたものをいいます。
署名の効力としては,必ずしも押印は要求されていませんが,普通は,署名の後にお客様の印鑑が押印されています。
記名押印というのは,ワープロとかゴム印など手書き以外の方法でお客様のお名前を文書に書いてそれにお客様の印鑑が押印されたものをいいます。署名と違ってこれには必ず押印がなくてはなりません。
また,他人がお客様の名前を手書きでお書きになって,お客様ご自身がこれに印鑑を押印した場合も記名押印ということになります。
商法第32条に「この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。」という定めがありまして,署名と記名押印は法律的には同じ効力があることになっています。
この定めは,ほかの場合にも通用することになっていますので,認証の対象となる署名は記名押印であっても構いません。例えば,会社の社長さんの署名の認証を求められる場合,ほとんどが記名押印です。
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わかりました。
署名がある文書にどうして公証人の認証が必要なのでしょうか。
公証人の認証というのは,文書の中身が正確だということを証明してくれるものなのでしょうか。
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文書に署名したご本人を相手の方がご存じない場合,はたしてその署名がご本人のものかどうかは文書を受け取る相手の方にはわかりません。
そこで,その文書に「この文書の署名は間違いなく本人の署名ですよ」という公証人の証明書がついていればはじめて相手の方も安心できますね。
それが公証人による認証の意義です。
この文書が外国で使用されるものであっても日本国内で使用されるものであっても同じです。
公証人という制度は国によって違いますが,世界中で信用を得ている公の信用付与機関なのです。
このように,公証人の認証は,あくまで署名や記名押印がその人のものに間違いない,ということに限られます。
公証人の認証は,文書の内容が正しい,ということを証明するのではありません。
ここのところをよくご理解ください。
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なるほど。
その文書の署名は正しくても,内容が正しいものかどうかは公証人が証明するのではないのですね。
すると,どのような文書でも公証人に認証してもらえるんですか?
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いいえ,その文書が明らかに法律上無効であったり公序良俗に反する内容であれば認証はできません。
また,公証人が認証する文書というのは,官公署が作成したものでない一般の方が作成した文書だけがその対象になります。
これを「私署証書」あるいは「私文書」といっています。
ですから,お客様のおっしゃったパスポートや戸籍謄本は官公署が作成したものですので,公証人の認証の対象にはなりません。
私立大学の卒業証明書だけが公証人の認証の対象になります。
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では,まず卒業証明書を認証していただくにはどうしたらよいか教えてください。
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卒業証明書を作成するのは普通その大学の学長さんですから,卒業証明書には学長さんの署名と押印があると思います。
ですから,公証人の認証は,卒業証明書の署名と押印が間違いなく学長さんの署名押印であることを証明するものです。
でも,公証人には卒業証明書の署名押印が学長さんの署名押印であるかどうかは直接わかりませんので,お客様が卒業証明書をお持ちになっても公証人はその卒業証明書に学長さんが署名押印したことに間違いない,という認証はできません。
公証人が学長さんの署名押印に間違いないと認証するためには,学長さんご本人に来ていただいて公証人に「この卒業証明書の署名押印は私のものに間違いない。」と宣言していただく必要があります。
このことを「署名押印の自認」と言っています。
これが1番目の方法です。
しかし,学長さんに来ていただくことはできませんよね。
その場合は,誰か学長さんの代理人の方に来ていただいて,「この卒業証明書の署名押印はうちの学長のものに間違いない。」と宣言していただくというのが2番目の方法です。これを「代理自認」と言っています。
この方法をとるときの問題は,お客様が学長さんの代理人を公証役場に派遣するよう大学側に頼んでいただかなければなりませんし,学長さんの代理自認を依頼する内容の委任状を学長さんに作っていただかなければなりません。
しかもこの委任状には,学長さんの署名又は記名押印がなければなりませんし,その押印が学長印であり,かつ署名・記名押印された方が学長さんという地位にあることを明らかにする証明書類をつけていただく必要があります。
会社で言えば,押印された印影が代表印であることを明らかにする印鑑証明書,記名押印された方が代表取締役であることを明らかにする代表者事項証明書と同じような証明書類が必要なのです。
これらの手配をするのもかなり大変なことです。
代理自認の場合に署名されたご本人が作成する委任状のサンプルをご案内します。
サンプルファイルは一太郎というワープロで作成されています。
委任状を作成する上でご注意いただきたいことも記載してあります。
お客様のパソコンに一太郎がインストールされていれば,左クリックするだけで中身を読むことができます。
委任状をお作りの際はこのファイルをダウンロードしてお使いくださって結構です。
一太郎のロゴを右クリックして 「対象をファイルに保存」 をクリックすればダウンロードできます。
WORDをお使いの方も同じ方法でダウンロードすればお使いになれます。
ダウンロード用 |
閲覧用 |
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そこで3番目の方法です。
それは,お客様に,「この卒業証明書は,私が,大学に申請して交付してもらった私の息子の卒業証明書に間違いない。」という内容の「宣言書」を作っていただき,それにお客様が署名押印して公証人がそのお客様の署名押印について「お客様が公証人の目の前でこの宣言書に署名押印した。」という認証文を作って,これを卒業証明書添付の宣言書と一緒に綴じて一体とする,という方法です。
これですと,お客様には宣言書を作成していただくだけで済んでしまいます。
必要なのはほかにお客様の身分証明書と認め印だけです。
外国に提出する宣言書ですので,署名だけで押印は必要ないかもしれませんが,それはお客様の方でご判断なさってください。
また4番目の方法としては,卒業証明書の謄本認証をすることです。
受け取る側が卒業証明書の原本は必要ない,という場合は,その写しが正確なものであることを公証人が認証すればことは足りるわけです。
そこで,このような場合は,公証役場に卒業証明書の原本と写しを持参していただき,公証人がこれを見比べて原本の写しに間違いないと認められる場合はその旨の認証文を作成してこれに写しを添付します。
このように公証人が宣言書など私文書の署名押印を認証した場合は,それぞれの方法に応じた認証文を作成します。
お客様のように認証文が付された宣言書や謄本を外国へ提出する場合,認証文は日本語で作成されますので,当役場では,お客様の便宜を図るため,お客様のご要望があればこの認証文の英文翻訳を同時に作成して認証文に綴じてお客様にお渡ししています。
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わかりました。
私立病院の医師の診断書もご説明いただいたどれかの方法で認証していただくということですね。
私は宣言書を作って持参することにします。
では,パスポートの写しはどうしたらよいのでしょうか。
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パスポート自体は外務省が発行したものですので公証人の認証の対象にはなりません。
そこで,パスポートの写し(コピー)を添付した,という「宣言書」を作ってこれに署名していただき,その署名を公証人が認証することになります。
この写しについては,パスポートの全部をコピーするのか,一部をコピーするのか,という問題がありますが,それはお客様のお考え次第でよろしいかと思います。全部をコピーすると渡航歴なども宣言書に添付されることになります。
一部の場合は
・表紙
・外務大臣の対外機関に対する要請書部分
・旅券番号と顔写真が印刷され,所持人のサインがなされている部分
・最後のページの「所持人記入欄」
などのページのコピーを添付することになるかと思います。
宣言書には,パスポートの全ページのコピーを添付したのか,一部を添付したのかを書かれた方がよろしいのではないでしょうか。
それから,パスポートのコピーを添付した宣言書を認証する場合,パスポートの現物をご持参ください。公証人が直接パスポートの内容とコピーとを照合確認させていただきます。
ほかに、念のためご本人を確認させていただきますので,身分証明書,例えば,運転免許証・住基カードなど顔写真付きの公的身分証明書か健康保険証のいずれかをパスポートと共にご持参ください。
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では,戸籍謄本はどうしたらよいのでしょうか。
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戸籍謄本は本籍地の市区町村長が作成する公文書ですのでやはり公証人が認証することはできません。
でもお客様の場合のように,外国への留学などに際して、外国の留学先の大学に対し、戸籍謄本を提出する必要が生ずる場合があります。
提出先の機関によっては、戸籍謄本に駐日の領事による認証(領事認証)を要求する場合があります。
この駐日の領事に認証してもら うために外務省による証明が必要とされる場合には、外務省(領事局領事サービス室証明班)では、戸籍謄本に押印された公印について、公印確認の証明の付与を行っています。この証明の付与をいただくというのが1番目の方法です。
2番目の方法は,卒業証明書と同じように,「この戸籍謄本は,私が,市長に申請して交付してもらった私の息子の戸籍謄本に間違いない。」という内容の宣言書を作り,これにお客様が署名押印して公証人の認証を受ける,という方法です。
もちろん,他の宣言書などと同じように,戸籍謄本をこの宣言書に添付して,公証人が作成する認証文を綴じて一体としたものを向こうの大学に送ることになります。
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わかりました。
では,公証人に宣言書を認証してもらえばそのままアメリカの大学に提出できるんですか?
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それが実はそうではないのです。
アメリカの大学側では,宣言書を認証した人がはたして権限を有する日本の公証人かどうかは公証人の署名や職印を見ただけではわかりませんね。
そこで,次のようなステップを踏んでその署名や記名押印がご本人のものに間違いないことを証明する仕組みなっています。
STEP 1 |
公証役場で公証人の認証を受ける |
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STEP 2 |
公証人の所属する法務局による公証人押印証明を受ける |
東京都内の公証役場で認証を受ければこの手続きは省略となります |
STEP 3 |
外務省の公印確認証明を受ける |
上に同じ |
STEP 4 |
提出先国の駐日大使館の領事による認証を受ける |
ハーグ条約加盟国内に提出するなら領事認証不要 |
ステップ4の領事認証を受けてやっと日本国内での法的手続きはすべて完了しているという証明がもらえることになるのです。
この手続きの中で,提出先国がハーグ条約という条約の加盟国であれば,ステップ4の領事認証は省略することができます。
これをアポスティーユを取得する,などと言っています。
お客様の提出先国のアメリカはハーグ条約に加盟していますのでステップ4の領事認証は受ける必要はありません。
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なるほど。
でも,領事認証は受ける必要がないと言っても,公証人の認証を受けた後,ステップ2とステップ3の証明などを受けなければならないのですか。 |
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実は,東京都内の公証人の認証を受けたときに法務局による公証人押印証明と外務省の公印確認証明,それにアポスティーユが同時に取得できます。つまり,ステップ2とステップ3の手続きは省略できますので,そのまま認証文がついた宣言書をアメリカの大学に提出することができます。
これを「ワンストップ・サービス」といいます。
東京都内の公証役場では、外務省が前もって公証人の署名押印を直接証明することにより、手続きが簡略化されているためです。
念のためご説明しておきますが,東京都内の公証役場で公証人の認証を受けた場合でも,提出先の国がハーグ条約に加盟していない場合は注意が必要です。
法務局や外務省の証明をあらためてもらう必要がなくても,領事認証だけは受ける必要があるのです。
ですから,外国に提出する文書の認証を受ける場合は,その提出先国がハーグ条約に加盟しているかどうかをまず確認してください。
これは公証役場にお尋ねになればすぐわかります。
でも,提出先の方によっては領事認証までは必要ない,という場合もありますので領事認証の要否について提出先の意向をよく確認する必要があります。
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わかりました。
これから宣言書やこれに付ける書類を持って公証役場におうかがいしますが,認証に必要な時間と費用はどのくらいかかるでしょうか。
また,ほかに持参しなければならないものがありますか?
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認証に要する時間ですが,もし,来ていただいてお待ちにならずに公証人に依頼できるのでしたら認証文をお渡しするまでおおよそ30分程度かと思います。
認証の手数料は,文書に金額に関する記載があるかどうか,外国文か日本文かで違ってきますが,お客様の場合は,認証を受ける文書に金額の記載がなく,日本語で宣言書をお作りなっているとして,その認証に要する費用は,宣言書ごと,つまり認証文ごとに1通5500円となります。
外国文の宣言書でしたらこれに6000円が加算となります。
お客様には身分証明書をご持参ください。
普通ご持参いただいている身分証明書は
印鑑証明書(実印をご持参ください) |
運転免許証 |
パスポート |
写真付きの住民基本台帳カード |
といったもののどれかです。
人違いを避けるために,写真がついていない健康保険証や住民票ではだめです。
印鑑証明書であれば発行から3か月以内のものを提出してください。
それ以外の身分証明書は,こちらでコピーをとらせていただいてお返しします。
ほかに,もし,宣言書に署名のほか押印もされるのであれば認め印をお持ちください。
では,お待ちしています。
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